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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)36号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)並びに審決の理由の要点1、2は当事者間に争いがない。

二 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(本願発明に係る願書並びに添附の明細書及び図面)、第三号証の一(昭和五三年七月二五日付手続補正書)、同号証の三(昭和六〇年八月二三日付手続補正書)、同号証の六(同年一〇月二一日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、ベースフイルム(基層)の両面又は片面にヒートシール層(表面層)を形成してなる熱接着による包装用のフイルムに関し、フイルム製造(逐次二軸延伸)時のフイルム特性を改良するとともに、フイルムを熱接着する際の低温ヒートシール性(低温融着接着性)及びヒートシール強度(接着強度)を改善し、更に、自動包装機による物品の包装に際して要求されるフイルムの滑り性、熱板離脱性、自動供給性等についても優れた特性を有する積層フイルムを提供することを目的として、前記本願発明の要旨のとおりの構成を採用し、右目的に相応する作用効果を得ているものであることが認められる。

しかして、引用例に審決の理由の要点4(一)記載のとおりの内容の記載があることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び成立に争いのない甲第四号証の二(引用例)によれば、引用例記載の発明も、本願発明同様、ベースフイルムの両面又は片面にヒートシール層を形成してなる熱接着による包装用のフイルムの構成に関するものであることが認められるところ、当事者間に争いのない審決の理由の要点4(二)、(三)及び請求の原因1(一)(ただし、両者が技術思想的に異なるとの点を除く。)に徴すれば、本願発明と引用例記載の発明は、右ベースフイルム並びにヒートシール層の第一及び第二成分の各構成成分、ヒートシール層の第一成分と第二成分の混合比率及び右第一成分の構成成分の割合の点でいずれも重複する関係にあるため、相違はなく、両者が相違する点は、ヒートシール層の第二成分に関し、これを構成するエチレンとブテンの割合(合計一〇〇重量%)が、本願発明ではエチレン一~四〇重量%、ブテン九九~六〇重量%であるのに対し、引用例で例示されたものはエチレン七四~九〇重量%、ブテン二六~一〇重量%とされている点のみであることが明らかである。

三 そこで、原告主張の取消事由の有無について判断する。

1 請求の原因1の(二)(ただし、原告主張の効果が本願発明の特有の効果であるとの点は除く。)の事実は当事者間に争いがなく、右事実と前記当事者間に争いのない同(一)(ただし、両者が技術思想的に異なるとの点は除く。)の事実によれば、本願発明においては、ベースフイルム並びにヒートシール層の第一及び第二成分の各構成成分、右ヒートシール層の第一成分の構成成分の割合及び第一成分と第二成分との混合比率のみならず、ヒートシール層の第二成分の一方の構成成分であるブテンの割合が当該フイルムの特性にどのような影響を及ぼすかについても検討を加えたうえ、ブテンの割合如何が請求の原因1(二)に引用した本願発明に係る明細書の記載(甲第二号証の一三頁一一行ないし一四頁八行)に示されるような影響を及ぼすとの知見を得、これに従つてヒートシール層の第二成分中のブテンの割合を前記本願発明の要旨のとおりにすることにより、当該フイルムの低温ヒートシール性や滑り性、フイルム製造(逐次二軸延伸)時の非融着性等の点で、右記載に示された不都合を避け得る効果を得ることができたものというべきである。

2 これに対し、前掲甲第四号証の二によれば、引用例中には、ヒートシール層の第二成分について、「結晶性エチレン―αオレフイン共重合体…とは、例えば三井石油化学(株)製の「タフマ―A四〇八五」、「タフマ―A一五七五」等の商品名で市販されているものを例示できる。」(二頁右上欄四行ないし八行)「ここに例示された「タフマ―A」の商品名で市販されている低結晶性エチレン―αオレフイン共重合体とは…エチレン含有量八五ないし九五モル%…の範囲のエチレン―ブテン・ランダム共重合体のことである。」(五頁右上欄下から二行ないし左下欄一行ないし七行、補正により前記二頁右上欄四行ないし八行に引続いて記載される。)との記載があることのほか、実施例においてはすべて、ヒートシール層の第二成分として右タフマ―Aのうちの四〇八五が使用されていることが認められ、他には、第二成分の具体例及び構成成分の割合に関する記載はないことが認められる(右タフマ―Aのエチレン含有量は重量%に換算すると七四ないし九〇重量%となり、したがつて、他の一方成分であるブテンの含有量が二六~一〇重量%となることは、前記のとおり当事者間に争いがないところである。)。

しかして、前掲甲第四号証の二によれば、引用例記載の発明は、従来品である、ポリプロピレン系のベースフイルムにエチレン―プロピレン共重合体のみで形成したヒートシール層を積層してなるフイルムにおいては、ヒートシール可能温度が比較的高いため、ヒートシール時にベースフイルムのポリプロピレン層の温度収縮をうながして皺が発生する原因となり、また、ヒートシールの適応温度範囲も狭いので自動包装機等によりヒートシールする際に厳密な温度管理が必要となるとの問題点が存したことから、一定のヒートシール強度を維持したうえで、ヒートシール可能温度を低下させ、かつヒートシールの適応温度範囲を広くすることを目的として、ヒートシール層に第二成分として低結晶性エチレン―αオレフイン共重合体を混合し、かつ、そのエチレン―プロピレン共重合体との混合比率を前記のように限定したものであることが認められ、その実施例等を通覧してみても、専ら右の混合比率の変化に関する記載があるのみで、第二成分の構成成分の割合の点については、本願発明における割合とは全く異なる市販品の例を掲げてはいるものの、そのような割合のものを使用する点の技術的意義に関する記載はなく、もとより、その変化がフイルムに及ぼす影響ないし作用効果に関する記載又は示唆も全く認められないから、引用例記載の発明においては、本願発明におけるように、第二成分の構成成分の割合に着目して、所望の特性を得る目的でこれを一定の範囲に限定するとの技術的思想は存在しないものといわざるを得ない。

3 そうであれば、引用例の記載のみから、当業者において、ヒートシール層(表面層)の第二成分中のブテンの割合に関し、引用例に記載されたものとは全く異なる本願発明の構成に容易に想到し得たものであるとか、右構成が必要に応じ適宜なし得ることにすぎないとかいうことはできず、もとより、右構成による作用効果を予測可能なものとすることもできない。

この点に関し、被告は、引用例には低温におけるヒートシール強度がヒートシール層の第二成分によつて影響を受けることが示唆されている以上、引用例の第二成分に相当する本願発明の第二成分の構成成分の割合を変えることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎず、また、本願発明の作用効果も、右構成成分の割合を変えることによつて必然的に生じるものにすぎない旨主張するが、被告がその主張の根拠とする引用例の記載は、「本発明のものは低結晶性エチレン―αオレフイン共重合体の混合比率が多くなるにつれてヒートシール強度が上昇している上に、一一〇℃の如き低温においてもヒートシール性が良好で、この結果、ヒートシール時における延伸ポリプロピレン層の熱収縮によるしわの発生や裂け目の発生がなく、美麗かつ丈夫で包装物の商品価値を高める包装が可能となる。」(甲第四号証三頁右上欄二行ないし九行)との記載であるところ、右記載は、第一成分と第二成分の混合割合が低温ヒートシール性やヒートシール強度に影響を及ぼすことを示唆するもので、第二成分の構成成分の割合による影響に関する記載でないことは明らかであり、また、他に被告主張の点を肯認するに足りる証拠もないから、前記被告の主張を採用することはできない。

4 以上によれば、原告主張の取消事由は理由があり、これが審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取り消されるべきである。

四 よつて、原告の本訴請求を認容する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ポリプロピレン系重合体により形成された基層の少なくとも片面の表面がエチレン―プロピレン共重合体(エチレン含有量〇・五~一〇重量%)二〇~八五(重量)%とブテン―エチレン系不飽和結合を有するモノマー(ブテンを除く)共重合体(ブテン含有量七〇~九九重量%)八〇~一五(重量)%とを有する重合体混合物により形成された表面層である少なくとも二層の積層フイルムを熱接着することにより物品を包装したものであることを特徴とする密封性の良好な包装体。

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